金で命は買えない「御宿かわせみ お吉の茶碗」
本作は、かわせみシリーズの二十冊目です。
愛すべきキャラクター・お吉がメインの表題作も良いですが、特に心に残ったのは「さかい屋万助の犬」。
日頃は温厚な蕎麦屋の主人・長助が、プリプリ怒って主人公に訴えます。
知り合いの娘が、大金持ちのさかい屋万助の屋敷へ、宴会の手伝いに行った。
が、何日経っても帰らず、会わせても貰えない。
掛け合いに行くと、獅子のような外国犬をけしかけてきた……と。
娘は殺されたのか、とにかく会わせられない事情があるに違いない。
大金持ちな上、無理に踏み込むのは難しい立地だし……。
悩んでいると、万助の家に医師が呼ばれた様子。どうやら、孫息子の容態が悪いらしい……東吾は友人の医師・宗太郎に相談し、彼の助手として、万助御殿に乗り込みます。
そこには、幼い子供が瀕死の状態で苦しんでいました。少し前、例の洋犬に噛まれたとか。
診察した宗太郎は、家族に辛い事実を伝えます。
「孫の命が助かるなら、千両でも万両でも出す」
とすがる万助に、無慈悲な事実を突き付ける宗太郎。
人の命を金で片付けようとした彼が、大切な孫を救えない展開には、天罰という言葉が浮かびます。
娘の直接の死因ではありませんが、娘も犯人も孫も、例の犬がキッカケで命を落とすのは皮肉。
なお後日談では、殺人犯の死が伝わり、因果応報と思わされました。